炎症性サイトカインは、転写因子NF-κB(nuclear factor-κB)の活性化を介して、細胞接着因子ICAM-1(intercellular adhesion molecule-1)の発現を誘導する。ウルソール酸(ursolic acid)は植物の代謝産物の一つであり、多くの化粧品の成分として利用されている。我々は、Cell ELISA法を用いたスクリーニングによって、ウルソール酸が炎症性サイトカイン(TNF-α、IL 1)による細胞表面のICAM-1の発現誘導を抑制することを見出した。ウルソール酸はTNF-αによって誘導されるIκBαのリン酸化や分解、及びICAM-1 mRNAの発現を抑制しなかったが、ICAM-1タンパク質の発現を強く阻害した。さらに、ウルソール酸は、[^3H]アミノ酸の酸不溶性画分への取り込みを阻害することが観察された。一方、ウルソール酸は網状赤血球ライゼートを用いた無細胞タンパク質合成を部分的にしか阻害しなかったことから、ウルソール酸は生細胞においてタンパク質合成を阻害していることが示唆された。我々は、強心配糖体であるウアバイン(ouabain)やオドロシドA(odoroside A)が、Na^+/K^+-ATPaseに作用することによって、Na^+依存性のアミノ酸輸送を阻害し、ICAM-1をはじめとするNF-κB誘導性遺伝子の発現誘導を翻訳レベルで抑制することを明らかにした。ウルソール酸は、これらの強心配糖体に比べて有効濃度が高いが、ブタ腎より精製されたNa^+/K^+-ATPaseの酵素活性を直接的に阻害することが観察された。以上の結果から、ウルソール酸は、少なくてもその生理活性の一つとして、強心配糖体と類似した作用メカニズムによって、炎症性サイトカインによって誘導されるNF-κB応答性の遺伝子発現を翻訳レベルで阻害している可能性が示唆された。
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