1.現在、日本をはじめ経済発展著しい中国やインドなど、世界中で糖尿病患者が増加している。その主徴である高血糖を食品成分によって予防することを目的として検討を行っている。体の中で最大の組織である筋肉組織の代替としてラット由来L6筋管細胞を用いて筋管細胞内へのグルコース輸送を高める食品因子を、また膵臓β細胞としてラット由来RIN-5F細胞を用いてインスリン分泌能を高める食品因子を探索してきた。 2.今年度は、コーヒー中の成分のうち、トリゴネリンが培養系でインスリン分泌を促進することを見出した。トリゴネリンを2型糖尿病モデルdb/dbマウスに摂取させたところ、血糖上昇を抑制することが見出された。また、ブドウやワインに含まれるピセアタンノール(PIC)がL6筋管細胞によるグルコース取り込みを促進すること、db/dbマウスにおいて血糖上昇抑制作用と耐糖能異常改善作用を示すことが明らかとなった。 3.PICより水酸基が一つ少ないレスベラトロール(RES)がL6筋管細胞のグルコース取り込みとRIN-5F細胞からのインスリン分泌を促進し、db/dbマウスにおいて血糖上昇抑制作用や脂質異常症を改善することが確認できた。 (1)そこで、L6筋管細胞におけるRESの作用機構を解析したところ、グルコース輸送体(GLUT4)がRES添加2~3分後から細胞膜へ移動すること、インスリンシグナルの下流で活性化するp38が同じくRES添加2~3分後よりリン酸化されることから、RESの作用はインスリンシグナル伝達経路の一部を介していることが示唆された。さらに、筋肉運動時などに活性化してGLUT4の細胞膜移行に関与するAMPKがリン酸化されることが見出され、RESはインスリンを介さないシグナル伝達経路でもGLUT4の細胞膜移行を引き起こし、血糖低下に寄与していることが示唆された。 (2)次に、RIN-5F細胞を用いてRESの作用機構を解析した。グルコースはタンパク質と反応し糖化タンパク質を形成する(AGEsと呼ばれる)。試験管内でAGEsを調製してRIN-5F細胞に作用させると、活性酸素種(ROS)を発生させ、アポトーシスを引き起こしてRIN-5F細胞に障害を引き起こすことを見出した。RESはROS発生とアポトーシス誘導を抑制し、酸化ストレスから膵臓β細胞を保護し、その結果インスリン分泌能を良好に保つことが示唆された。 このように複数の食品成分が糖尿病予防に有効であること、そしてその一部の作用機構を解明することができた。
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