研究概要 |
東京大学北海道演習林内の個体密度の異なるウダイカンバ4林分(1.9,19,90,300本/ha)において、樹上種子および散布種子の繁殖成功ならびに遺伝的多様性を評価した。その結果、最も個体密度の低い林分(1.9本/ha)において有胚率、有効花粉親数の低下が生じていることが示され、低密度林分において花粉不足が生じていることが示された。一方で、300本/haと最も個体密度の高い林分においても、繁殖成功度および有効花粉親数は低い傾向にあり、このことは林冠のうっぺい度が花粉散布の制限要因となっていることを示唆していると考えられる。以上のデータを用い、本種において最も繁殖成功度が高まる個体密度の推定を行った。これまでの風媒樹種の研究例では、極端に密度の低下した林分における報告は散見されるものの、同種内においてここまで計画的にデザインされた研究例はなく、風媒樹種の花粉散布研究に一石を投じた結果といえる。また、散布種子段階の結果からも、低密度林分ではseed shadowの重なり具合の低下による空間的な遺伝的構造化が生じていることが示された。これらの結果は学問上の意義だけでなく、実際に本種を施業管理する際の指標として個体密度を利用する際の有効かつ重要なデータであるといえる。 埼玉県秩父地域おける、異なる標高域(850-1750m)のミズナラ19林分の遺伝的多様性を7つの核SSRマーカーを用いて評価した。その結果、高標高域(>1500m)および低標高域(<1000m)に比べ、中標高域(1000-1500m)の集団の遺伝的多様性が最も高いことが明らかとなった。このことは低および高標高域は本種にとって生態的な分布の端にあたり、生育地が限られていること、また生育地間の遺伝的な交流も中標高域に比べて限られていることなどの影響と考えられた。標高が植物種の遺伝的多様性に与える影響は草本種では報告があるが、木本種ではほとんど報告がなく、学問上の新知見であるといえる。
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