研究概要 |
火山荒原における森林形成初期段階においては,先駆樹木や後続樹種の定着に菌根菌が不可欠なことが明らかにされたが,その機構はまだ十分明らかにされていない。本研究課題では,菌根菌を中心とした土壌微生物の生理的・生態的多様性が樹木との相互作用にどのように影響するのかを明らかにすることを目的とする。本年度は以下の項目について研究を実施した。 1.菌根菌の機能的多様性と植物への影響 富士山火山荒原に発生した菌根性キノコの主要な菌種について炭素と窒素の安定同位体比を測定した。特に,菌種によって窒素の安定同位体比に大きな違いがあるという結果が得られた。これは菌種によって利用している窒素源が異なることを示唆しており,野外における菌根菌の機能的多様性に関する重要な指標となりうることを意味する。 2.菌根菌の繁殖様式の多様性について 火山荒原の最も主要な菌種であるキツネタケ,ウラムラサキ,ハマニセショウロについて,マイクロサテライトマーカーを用いた個体群解析を行った。ハマニセショウロについては,各ジェネットのサイズは大きく,10mを超えるものもあった。キツネタケとウラムラサキのジェネットは小さく,最大でも1m程度であることが明らかにされた。ジェネット構造の違いは繁殖様式の違いを示すものであり,得られた結果は菌根菌の繁殖様式の多様性を示唆している。 3.菌根圏バクテリアの多様性について 富士山火山荒原のミヤマヤナギと,富士山麓樹海のアカマツについて,菌根圏バクテリア群集を調べた。アカマツの菌根から分離された1バクテリア群集ではBurkholderia属が圧倒的に優占していた。一方,ミヤマヤナギからはRhizobiumやBradyrhizobiumの他,多数の異なるαおよびβプロテオバクテリアが分離された。
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