研究課題/領域番号 |
19380086
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
徳地 直子 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 准教授 (60237071)
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研究分担者 |
廣部 宗 岡山大学, 大学院・環境学研究科, 准教授 (20363575)
金子 有子 京都大学, 琵琶湖環境科学研究センター・総合解析部門, 専門研究員 (90280817)
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キーワード | 森林生態系 / 窒素飽和 / リン制御 / 酵素活性 |
研究概要 |
近年中国をはじめとするアジア諸国の経済発展に伴い、工業生産や集約的な農業経営により放出される活性窒素が増加している(Galloway)。我が国は季節風などによりこれらアジア諸国からの放出物の影響を受ける。活性窒素は植物をはじめとする生物の生産性を左右する重要な必須元素であるが、一方で生態系内の生物要求量を超えると生態系外へ流出していくことが知られている。この現象は"窒素飽和現象"(Aber et al. 1998など)と呼ばれる。多くの温帯域の森林生態系において窒素は植物の成長を制限する制限因子であり、降下物中に含まれる活性窒素は植物によって吸収、植物体を形成するのに使われる。そのため、窒素は生態系内に保持され渓流水には流出しない。これが森林生態系の生態系サービスのひとつである水質浄化機能と呼ばれるものの主体となっている。下流域のすべての生態系は水質浄化機能が高度に発揮された、安定した水質が供給される状態に依存して存在する。しかし、活性窒素の降下量が増加し、生物要求量を上回った場合余剰の窒素は渓流に流出し、下流域の生態系が依存している河川水に降下物の影響が現れるようになる。水質の変動は降下物に依存して大きくなり、下流域の生態系の物質循環や生物多様性も大きく変化することが予想される。本研究では、窒素飽和の現状の把握とその発生メカニズムについて明らかにすることを目的とした。そのとき、これまでの知見を踏まえ、窒素飽和が通常の制限要因である窒素からリンへと移行することによって生じるという仮説を立てた。まず、本年は土壌のリン酸分解酵素活性の測定を行った。対象とした各試験地で土壌を採取し、酵素活性を測定した。その結果、林玲や地域といった違いは大きくなかった。一方、クロボクはそれ以外の土壌に比較して、リン酸濃度と単位時間あたりの酵素活性の間のミカエリスーメンテン式におけるKm、Vmaxに大きな違いがみられた。このことは、クロボク土壌でリン酸吸着係数が高いというこれまでの知見を支持するものであった。これらのことから、リン酸酵素活性には地質的な違いが大きく、リン欠乏による影響はクロボク土壌で高く、リン欠乏により窒素飽和へ至る可能性が高いと考えられた。
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