本研究では、樹皮に傷害樹脂道が形成されるヒノキアスナロと、木部に傷害樹脂道が形成されるメタセコイアの苗木を用いて、傷害刺激の伝達物質であるエチレン、ジャスモン酸、およびサリチル酸の傷害樹脂道形成における役割を比較検討した。 材料と方法:試験には2年生のヒノキアスナロ(マアテ)苗木とメタセコイア苗木を用いた。苗木は傷害区と無傷区に分けた。傷害区は地際から10cmの高さに5×5mm剥皮し、薬剤ペーストを処理した。無傷区は、傷をつけず直接ペーストを樹皮に塗布した。処理はエチレンの発生剤であるエスレル(Et)、ジャスモン酸メチル(JA-Me)、サリチル酸ナトリウム(SA-Na)を用い、ラノリンペーストとして処理した。各濃度の組み合わせはCont. (Lanolin)、Et1%、JA-Me1%、SA-Na1%、Et1%+SA-Na1%、およびEt1%+JA-Me1%+SA-Na1%である。薬剤処理は2009年8月2日、処理部位の採取は2ヶ月後の2009年10月2日に行った。採取後、サンプルは滑走式ミクロトームを用いて、木口面の切片を作成した。傷害区は、傷口の端から上下に3mm離れた部位で切片を作成し、無傷区は、塗布部の中央から上下に3mm離れた部位で切片を作成した。作成したプレパラートから樹脂道個数と樹脂道面積を光学顕微鏡およびOLYMPUSDP2-BSWアプリケーションソフトウェアを用いて測定した。 結果と考察:ヒノキアスナロ樹皮に形成される傷害樹脂道は、傷害部にジャスモン酸を処理することによって顕著に促進されたが、無傷の場合には促進的ではなかった。これに対してメタセコイア木部内の傷害樹脂道形成は、傷害の有無に関わらず、エスレルおよびジャスモン酸によって顕著に促進された。 さらにタイ王国においてAquilaria crassnaを用いて樹幹内の沈香成分沈着に関する刺激伝達物質の役割についても検討した。この成果は現在、特許出願準備中である。
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