研究概要 |
スギ枝枯菌核病菌(Scolicosporium sp.)はスギタマバエの虫えい痕を侵入門戸とする病原菌である。そこで、虫えいの形成過程に着目し、本菌が発育中にある虫えいのどの段階で感染するかを明らかにすることを試みた。また、虫えい内に生息する菌類群を明らかにする目的で(1)虫えい形成以前の針葉、(2)初期の虫えい、(3)細胞壊死を伴った虫えい、及び(4)虫えい痕における菌類相を調査した。 菌類分離試験の結果、虫えい形成以前の針葉からは、Pestalotia sp.Rhinocladiella sp.及びCladosporium sp.が高い頻度で分離された。細胞壊死を伴わない初期の虫えい組織からはScolicosporium sp.,Pestalotia sp.,Rhinocladiella sp.,及びCladosporium sp.が優占的に分離された。また、Scolicosporium sp.が分離されたことから,本菌は細胞壊死発生以前の初期の虫えいにすでに感染していることが判明した。細胞壊死が形成された虫えいからも上記と同様の菌類が分離された。幼虫が脱出した後に形成される虫えい痕からは、Scolicosporium sp.,Pestalotia sp.,Rhinocladiella sp.,Cladosporium sp.の他にAlternaria sp.やPenicillium sp.が分離され、空中雑菌の混入が見られた。以上から、スギ枝枯菌核病菌は細胞壊死を伴わない初期の虫えいに感染することが判明した。また、Pestalotia sp.,Rhinocladiella sp.及びCladosporium sp.の3菌が、虫えいに優占的に生息する菌類であることが示唆された。 一方、虫えいに含まれる化学成分がスギ枝枯菌核病菌の生育に影響を与えると予想されることから、菌の感染で変動があると思われるフェノール性物質について分析を行った。その結果、「虫えい」、「虫えい周囲部」及び「虫えい形成のない部位」におけるフェノール性物質に定性的な差はなく、chlorogenic acidとその誘導体(1種類)が確認された。chlorogenic acidは植物由来のフェノール性物質であり、健全植物に低濃度存在する一般的な抗菌物質として知られている。対照区よりも、虫えいや虫えい周囲でchlorogenic acidか多く含まれていたといり結果は、虫えいで本化合物が誘導されていることを示唆している。
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