研究概要 |
森林のニーズの多様化に伴って広葉樹造林の機会は拡大しつつあるが,そこで用いられる広葉樹種苗の配布区域については,具体的枠組みがないまま,少数個体に由来する種苗が広域で流通し,植栽に用いられている可能性が指摘されており,地域固有の遺伝変異を保全する見地から遺伝子攪乱が危惧されている。このため,系統地理学的研究により分布域全体に渡っての遺伝的分化について明らかにすることは,種苗配布についてのガイドラインを検討する上でも重要である。そこで,本研究では,冷温帯構成する主要樹種でもあるブナをモデル樹種と位置づけて,葉緑体の1塩基多型(SNP)を遺伝マーカーに用い,ブナの分布域全体に渡って,精細な系統地理学的構造を明らかにすることを目的とする。 平成20年度は,秋田県,山形県,福井県,四国各県,福岡県,大分県,宮崎県,鹿児島県のブナ天然林から分析試料を収集し,SNP分析を進めた。その結果,ブナの天然分布域の全域にわたって,詳細なブナのハプロタイプ地図を作成することができた。昨年度新たに検出された新規ハプロタイプは,中央構造線の南側の地域に特異的に認められる傾向にあり,ハプロタイプの分布と最終氷期以前の地史的により古い時代の地質的なイベントとの関連性が示唆された。
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