研究概要 |
再生事業等で交渉樹植栽の機会が拡大しつつあるが,広葉樹種苗の取り扱い(配布区域)については具体的枠組みがない。このため,種苗の広域での流通により地域固有の遺伝変異が損なわれる可能性(遺伝子攪乱)が危惧されている。本研究では,冷温帯構成する主要樹種であるブナを対象樹種とし,葉緑体の1塩基多型(SNP)を遺伝マーカーに用いて,ブナの分布域全域から収集した478地点3,004個体の葉緑体ハプロタイプを同定し,精細な系統地理学的構造を明らかにした。ハプロタイプは地理的に明瞭な系統地理学的パターンを示した。九州・四国に広く分布するクレードIIIの祖先的ハプロタイプであるNとOは富士山周辺の地史的に比較的古い山域から検出され,これらのハプロタイプは遺存的に富士山周辺に分布していると推察された。また,東京大学北海道演習林に設定されているブナ産地試験地において,各産地のハプロタイプ,葉面積,開葉フェノロジーを調査・分析し,一般線形化モデルで解析した結果,開葉フェノロジー,葉面積は,いずれも緯度とハプロタイプによって異なった。
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