ハプト藻の一種Phaeocystisは微細植物プランクトンとして海洋に広く分布する。一方、Phaeocystisはαキチンのミクロフィブリルを合成する植物であることも知られている。Phaeocystisのαキチンは高結晶性、良分散性、培養による生産が可能であることから、αキチンの構造解析のための優れた試料として注目されはじめている。αキチンの結晶構造は、1970年代に提案された逆平行鎖で2本鎖の斜方晶モデルが広く受け入れられていた。しかし、本研究課題により大量培養で得られたPhaeocystisのαキチンの高輝度X線回折によるデータおよびC^<13>固体NMRスペクトルを解析した結果、従来のαキチンのモデル試料である甲殻類のサンプルでは分離できなかった新規なX線回折スポットや新規なC^<13>固体NMRスペクトルが確認された。この発見は、天然αキチンは2本鎖ではなくより大きな単位格子の可能性を示唆し、αキチンの構造モデルの見直しが必要となった。X線回折の精度を高めるには高配向性の試料を調製することで解決可能だが、C^<13>固体NMRスペクトルの精度向上にはキチンに含まれるC^<13>濃度を人工的に高める必要がある。当該年度では、C^<13>炭酸ガス雰囲気下でPhaeocystisを試み、C^<13>エンリッチされたαキチンの回収を行なった。C^<13>エンリッチされたαキチンのC^<13>固体NMRスペクトルに関して現在測定を継続中である。
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