木材から簡便に短時間で、しかも少ないコンタミネーションの可能性でDNAを取り出す手法を考案し、特許を出願した。この手法をスギ、クヌギ、レッドメランティ材に適用したところDNAの増幅が確認され、その有効性が検証された。また、DNA量と分布の経年変化についてスギ材における解析した。通常のDNA抽出キットを用いて、木材中に残存するDNA量を調べたところ、心材では辺材よりもDNA量が少なく、また、木材の伐採後の経過年数の増加とともにDNA抽出およびその増幅効率が低下し、それらの効率の低下には心材化による細胞オルガネラ等の消失よりも、伐採後の経過年数による影響が大きいことが分かった。蛍光顕微鏡によって、木材中のDNA分布を観察し、辺材中ではDNAは主に放射柔細胞と軸方向柔細胞の細胞オルガネラに分布するが、軸方向柔細胞のオルガネラは伐採後1年以内に消失し、放射組織のオルガネラに含まれるDNAは時間経過とともに消失していくが、晩材部の放射組織においてはDNAが消失しにくいことが分かった。また、心材中の柔細胞には心材成分と思われる褐色の物質が沈着するが、辺材においても伐採後の経過時間の延長とともに、柔細胞中に褐色物質が沈着する。これらの褐色の物質がDNAの抽出および増幅効率を低下させている可能性が示唆された。レーザーマイクロダイセクション法を用いてスギ材からDNAを含む細胞組織を取り出し、増幅行うための最適条件の検討を行った。樹脂包埋せず、10〜20ミクロンの放射切片から組織を切り出すのが有効であった。本年度得られた結果を組み合わせることで、次年度は古材からDNAを切り出して直接増幅し、分析するための手法を確立する。それを用いることで、長期間にわたって保管されていたような木材の微小な破片からでも木材の樹種の識別が可能になる。
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