研究概要 |
本研究では, スルメイカの短・中長期資源変動に対して, 気候・海洋環境変化がスルメイカの全生活史を通して, いつ, どこで, どのように影響するかを検証し, その出口として, 短・中長期の資源変動を, どのような環境・生物的要因あるいは指標を用いて予測する手法の確立を目指している。さらに, 多獲性浮魚類の魚種交替にスルメイカを加え, 環境変化(特にレジームシフト)に応答する魚種交替仮説を提案することを目的としている。 平成20年度は, 以下のような成果を得た。スルメイカの新再生産仮説「産卵による卵塊形成からふ化幼生が暖水表層で生存可能な再生産海域は, 陸棚-陸棚斜面域(水深100-500m)で, 表層暖水の水温範囲が18-23℃(最適範囲は, 19.5-23℃), 季節混合層深度が海底まで達しない海域」を適用し, 平成17年度から平成20年度における秋-冬生まれ群の再生産海域の地理的変化を精査した。その結果, 平成17年度は2-3月の産卵場が縮小, 平成18年度は10月から3月までの産卵場が拡大, 平成19年度は, 10月が高温のため縮小, 2-3月が低温のため縮小, 平成20年度は再び18年度に類似していた。これにより, 18年度の冬生まれ群の資源減少, 19年度の秋-冬生まれ群の資源増加, 20年度は秋生まれの減少と11月, 12月, 1月生まれの増加を予測できた。以上のように, これまで不可能であった短期(翌年)の資源動向予測の可能性が見出された。一方, 成体(未成熟)のスルメイカを用い, 13℃と15℃, 17℃で飼育し, その間の摂餌量と成長および成熟状況を調べた。雌では履歴水温が高いほど成長が良く, 早く成熟することなど, 本種の摂餌/成長と成熟の間に, 履歴水温依存型のトレードオフ関係が存在することが明らかにできた。
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