研究概要 |
本研究では,スルメイカの短・中長期資源変動に対して,気候・海洋環境変化がスルメイカの全生活史を通して,いつ,どこで,どのように影響するかを検証し,その出口として,短・中長期の資源変動を,どのような環境・生物的要因あるいは指標を用いて予測する手法の確立を目指している。さらに,多獲性浮魚類の魚種交替にスルメイカを加え,環境変化(特にレジームシフト)に応答する魚種交替仮説を提案することを目的としている。 平成21年度は,以下のような成果を得た。スルメイカの新再生産仮説「産卵による卵塊形成からふ化幼生が暖水表層で生存可能な再生産海域は,陸棚-陸棚斜面域(水深100-500m)で,表層暖水の水温範囲が18-23℃(最適範囲は,19.5-23℃),季節混合層深度が海底まで達しない海域」を適用し,1970年以降の産卵場面積の季節,経年変化とスルメイカ資源量・漁獲量との関係を解析した。その結果,1976/77年の寒冷レジーム期には,東シナ海の冬生まれ群の産卵場の縮小と中国冷水による分断が頻繁に生じて,その資源量が激減したと判断した。また,1988/89年以降の温暖レジーム期には,秋-冬の産卵場面積も増大し,かつ連続していることが,資源の増加をもたらしたと判断した。ただし,2000年代半ばから秋生まれ群の産卵場面積に減少傾向があり,これが全体の漁獲量の微減傾向と一致しており,今後のスルメイカ資源の減少が懸念される。一方,一定水温での未成熟のスルメイカの飼育実験の結果,12℃以下,23℃以上では生存できないこと,13℃から19℃の範囲では,雌雄で成長と成熟のトレードオフに違いがあり,雄は15-17℃で性的に成熟し交接行動が可能となり,雌は18℃以上で産卵可能となることが明らかとなった。この実験結果は,索餌・産卵回遊を通した個体レベルでの生活史モデルを,海洋環境変化(寒冷・温暖・地球温暖化)との関係で解析できる貴重な知見として,今後活用できる道を拓くことができた。
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