共生細菌を持つ熱水噴出域固有生物が体内に大量に含む含硫アミノ酸チオタウリンは、硫化物の無毒化や硫黄酸化細菌との共生に関与している可能性が高い。本研究では、チオタウリンやその前駆体を輸送するアミノ酸輸送体の解析から、熱水域への適応や共生の仕組みの解明を試みている。本年度は、 1.蛍光in situハイブリダイゼーション法を用いて、シチョウシンカイヒバリガイの鰓に共生する硫黄酸化細菌の定量を行った。硫化物濃度の異なる環境から採集した、あるいは硫化物濃度の異なる水槽で飼育した個体を比較したところ、共生菌量は環境中の硫化物量を反映していた。 2.一方、タウリン輸送体(TAUT)mRNAをリアルタイムPCRにより定量したところ、有意な変化は認められず、本種は、環境中の硫化物量に応じたTAUT遺伝子の発現調節は行っていない可能性がある。 3.同様の実験を、メタン酸化細菌を共生させる近縁種ヘイトウシンカイヒバリガイにおいて実施したところ、硫化物添加水槽で2カ月飼育した個体ではTAUTmRNA量が有意に増加した。硫黄酸化細菌を持たない種においてもTAUTが硫化物の無毒化に関与している可能性がある。 4.チオタウリンおよびその前駆体であるヒポタウリンやタウリンを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量する系を確立した。現在、上記実験に用いた個体の分析を実施中である。 5.ヘイトウシンカイヒバリガイにおいて、^<14>C標識タウリンの取り込み実験を試みた。結果のばらつきがあったため、現在方法の改良を行っている。 6.ハオリムシ類のTAUTcDNAの単離を試みたが、貝類で有効なプライマーでは増幅できなかった。
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