研究課題
人間の生産活動が活発になるにつれて、局所的な破壊にとどまっていた海洋環境が、地球規模の破壊にその様相を変化させてきた。海棲哺乳動物、海鳥、魚類、甲殻類などの海洋生物は、これまで人為的な捕獲によってその個体数を減少させてきたが、最近では、有機塩素系化合物、有機スズ化合物、重金属類、フッソ化合物などの有害化学物質海洋汚染による影響が指南されるようになってきた。特に船底塗料や定置網の防除剤として利用されている有機スズ化合物は極めて毒性が高いことから、国際海事機構(IMO)では2008年から、有機スズ化合物の全面使用禁止に向けて、監視体制を強化し、国際的なモニタリング研究を推進している。また、世界各国で有機スズ化合物の代替化学物質の使用が予想されることから、これらの化学物質による環境汚染調査の必要性も指摘されている。本研究では、アジア諸国やロシアの研究者と共同して、アジアやユーラシア沿岸海域における有害化学物質による海洋汚染状況を調査し、それぞれの化学物質の分布特性や蓄積特性を明らかにするとともに、生物影響についても言及することを目的とした。本年度は、日本近海のみならず、インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナムなどのアジア海域にも出掛け、生物標本や底泥標本を採取し、海洋研究所に設置されているGC-MSやICP-MSを使用して有害化学物質を分析した。同時に、生物試料を詳細に調査して、生物影響の有無を精査した。タイで採取したイルカにBTsやPTsなどの有機スズ化合物が高濃度に蓄積していることが明らかになった。また、有機スズ化合物の代替化学物質であるSea nine 211,Duron,Irgarol 1051は大阪湾や岩手県大槌湾の底泥やイガイ類からも検出された。タイ、マレーシア、ベトナムで採取した底泥やイガイなどの生物試料からも、これらの化学物質が検出されており、アジアの沿岸域でも有機スズ化合物の代替化学物質による環境汚染が既に進行していることが明らかになった。これらの代替化学物質の自然界で挙動や毒性影響が十分に調査されていないにもかかわらず、日本を含むアジアの沿岸域で既に使用されていることは、極めて問題がある。BTsやPTsなどの有機スズ化合物による環境汚染から何ら学ぶことなく、同様の道をたどる危険性がある。これらの代替化学物質の生産者や使用者から各化学物質の使 用量などの正確な情報を収集して、環境汚染対策を構築する必要がある。ロシアに関しては、本年度、生物試料を日本国内に持ち込むことが困難であったので、研究室に保存されている既存試料を用いて分析した。2008年9月にウクライナのオデッサで開催された「北極海海棲哺乳類動物学会」で、ロシア側の研究者と北極海の環境調査について計画の打ち合わせを行い平成21年度夏季に実施することが合意されている。
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