研究概要 |
本研究においてもっとも重要度の高い奄美大島近海での目視調査を大島海峡と島北西部(東シナ海)を中心に2010年5月と2011年3月に用船により行った.その結果,計6群の本種の発見があり,個体識別のための写真撮影にも成功した.これら以外に2007年以降に地元のダイビングショップ関係者等が撮影した本種の写真を新たに入手した.これらの写真をもとに,背びれの傷等から個体識別作業を行った結果,奄美大島近海の個体群について,50頭以上を個体識別することができ(個体識別カタログを作成),複数年にわたって連続して発見される個体の存在や海峡内と島西部との間の移動も確認された.また,繁殖期や発情周期を調べるための定期採血を沖縄美ら海水族館の飼育成熟個体(オス4,メス2)を用いて前年度から継続して行い,性ホルモン濃度を測定し、その変動を調べた.その結果,本種の雄は,周年精子形成能力を有するが,精子形成がより活発になる時期は春から夏であることがわかった.また,この過程で,水族館側の努力により,新鮮精液を採取することに成功した.さらに,本研究において新たな分布域であることが明らかになった鳥島近海の個体群も含め,糞便,組織,血液等の試料を用いて,個体群判別のためのmtDNA解析を新たに行ったところ,鳥島の個体群は,東京都御蔵島の個体群と遺伝的に近いことが明らかになった.その御蔵島においては,行動の水中観察と水中ビデオ映像の記録・解析を行い,コンタクトスイムなどの社会行動を分析した.その結果,コンタクトスイムの頻度は,オトナメス間より親子やオトナオス間で高いことなどが明らかになったほか,今後,個体間関係を遺伝的に明らかにするためのDNA解析用糞便試料の採取を継続し,識別個体38個体分,計86検体を採取した(うち70検体からはDNA抽出済).
|