本研究は有明海において資源が減少傾向を示している魚類の代表種としてシログチをとりあげ、その資源変動に重要と考えられる中央部の産卵場から奥部の成育場への仔稚魚の輸送とそれに伴う減耗に関与する要因の解明を目的としている。20年度の研究成果の概要は以下の通りである。(1)2008年のシログチの産卵盛期は7-8月であり、仔魚は7月から9月にかけて有明海奥部(主に西側海域)に出現した。こうした状況は2007年とほぼ同様であったが、2007年に比べて仔魚の出現数は少なかった。シログチの人工授精実験を現場で行った結果、受精卵は浮上することなく沈降することが分かった。シログチは底層で夜間に産卵することから、シログチ卵は少なくとも受精直後は底層に分布すると考えられる。(2)シログチ仔魚の輸送経路と考えられる奥部の西側海域の流れ(残差流)とその時間変動について、7月にADCPによる測流と水温・塩分の集中観測を行い、観測結果の数値モデルによる再現性を検討した。現場海域では上層で南下、下層で北上する残差流が卓越しており、数値モデルでも同様の傾向が再現された。下層の北上流は中底層に分布するシログチ卵・仔魚の奥部への輸送に重要な働きをしているものと考えられる。(3)諌早湾および奥部の底層に発生する貧酸素水塊の変動実態について解析を行い、卓越する風の変動が貧酸素水塊の発達の程度や移動に大きな影響を及ぼすことを明らかにした。シログチ仔魚の出現状況の変動との関連について、さらに検討を進める予定である。(4)島原半島沿岸から奥部に向かってシログチ仔魚が大型化すること、奥部の仔魚ほど夜間の上げ潮流時に中底層に出現する傾向が強くなることが分かってきた。まだ事例は少ないものの、このことはシログチが奥部の成育場への移動に潮流を選択的に利用している可能性を示唆している。
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