海洋温暖化の進行下において、シイラ等の熱帯捕食魚類の温帯海域への出現が温帯性マグロ類の分布機構に及ぼす影響について調査した。本年度はプロジェクトの最終年度であることから、データ解析作業と成果の論文化に傾倒した。本年度の成果は以下の通りである。 1) 前年度の冬季に東シナ海から42個体のクロマグロにアーカイバルタグ(深度水温記録計)を取り付けて放流したが、そのうち平成21年度中に東シナ海から2個体、日本海(青森・秋田・新潟・島根)から4個体、太平洋(千葉)から1個体の合計7個体が再捕獲されて、3月中旬から5月上旬までの遊泳行動記録を得た。標識個体は3月には混合層内を鉛直移動していたが、4月中旬以降に温度成層が発達すると表層混合層内に滞在しており、急激な温度変化を避けるために躍層下への潜行が阻まれたものと考えられた。温暖化の進行により冬季の気温が上昇すると海表面の冷却効果が弱まり、鉛直混合も弱まる。このように温度成層期が長期化すると予測されることから、鉛直方向のハビタットが縮小されるかもしれない。 2) 一方、熱帯捕食者であるシイラは概ね水温20℃以上の海域に出現して、ほとんど表層混合層内の鉛直移動を繰り返し、水温躍層下には潜行しない。温暖化が進行すると春季の水温が上昇傾向となり、シイラの来遊が早期化するであろう。また、温度成層の発達が早期化することで、温帯海域における混合層内でクロマグロと熱帯捕食魚類とのハビタットが重複すると推定される。
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