昨年度、ミオシン重鎖の一次構造解析を行った4種類の軟体類、すなわちスルメイカ、ヤリイカ、コウイカおよびマダコの外套膜筋から全RNAを調製し、cDNAに変換した後、アクチン遺伝子のクローニングを行った。さらにコード領域の塩基配列を決定し、全アミノ酸配列を演繹した。一方、パラミオシンおよびトロポミオシンの遺伝子クローニングに着手し、部分的な塩基配列を得た。ミオシン重鎖の未決定部分についても配列を得た。これらはデータの乏しい頭足類筋肉タンパク質の特性を解明するにあたり貴重な情報である。一方、ホタテガイ、スルメイカおよびトコブシの筋肉からトロポミオシンめ精製を行った。次いで、熱変性過程におけるエンタルピー、エントロピーおよび変性における自由エネルギーの変化を求めた。さらにコイルドコイル構造の熱安定性について示差走査熱量分析により検討を加えるとともに、α-ヘリックス含量の温度依存的な変化、その可逆性について円二色性測定により調べた。次に、各トロポミオシンにつき、そのまま、あるいは種々のタンパク質分解酵素および化学開烈で限定分解後精製した上で、および円二色性測定に付し、さらに赤外分光分析やプロテアーゼ抵抗性から構造安定性の相違について検討した。この部分については、魚類筋肉由来のものとの比較検討を行った。他方、ANS結合による蛍光強度を指標に疎水性残基の露出度を求め、熱変性における構造変化について検討した。以上の結果に基づき、各二次構造の安定性に関与するアミノ酸を特定した。これらの結果は、軟体類(頭足類)が特有の運動形態に適応する過程で筋肉タンパク質が、脊椎動物に見られないユニークな構造を獲得ずるに至った経緯を示唆するものである。
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