本研究課題において、これまでに研究対象としてきた軟体動物(頭足類)、すなわちスルメイカ、ヤリイカ、コウイカおよびマダコの4種類につき、トロポミオシンのアミノ酸配列が未知のヤリイカ足筋から全RNAを調製し、cDNAに変換した後、クローニングを行い、全アミノ酸配列を演繹した。これで、上記4種類に関し、ミオシン重鎖、アクチン、トロポミオシンのすべての一次構造が判明したことになる。そこで、得られた配列情報に基づき、分子系統樹を作成することにより各タンパク質の類縁関係や進化の過程を推定した。一方、ミオシン重鎖についてはこれまで明らかにされたものに加えて、アイソフォームの存在を認めたため、さらに検討を進めた。その結果、マダコとヤリイカのものについて、尾部の構造が異なる2種類の新規配列を明らかにした。両者について、コイルドコイル構造の7残基繰り返し配列など、二次ないし高次構造上の特性を明らかにした。しかしながら、各アイソフォームの機能については、現段階では不明である。 これらの知見により、性状について不明の点が多かった頭足類筋肉のフィラメント形成タンパク質について情報が集積した。これらの結果は、軟体類(頭足類)が特有の運動形態に適応する過程で筋肉タンパク質が、脊椎動物に見られないユニークな構造を獲得するに至った経緯を考える上で貴重な情報となりうる。最後に、これまで本研究課題で得られた各タンパク質につき、一次構造情報をもとにホモロジーモデリングにより立体構造を推定した。さらに、上記3種のタンパク質間のインターフェースのモデル構造にもとづいて、軟体類筋肉の構造特性について取りまとめた。
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