本年度の主な研究実績としては、北東アジア圏における共通食料自給率政策について検討するため、研究会と4回の科研打ち合わせ会議を開催し、韓国及び中国の海外視察調査も実施している。研究会では、2008年5月31日に明治学院大学の涌井秀行氏に北東アジア地域の経済構造と農業・食料問題に関連して、「戦後日本資本主義の「基本構成」分析試論-欧米類型からアジア類型としての再定義-」と題して、北東アジア地域の経済構造分析に関する涌井氏の試論について報告して頂き議論を深めた。海外視察調査においては、今年度は2008年9月19日〜9月25日にかけて韓国を調査対象地として実態調査を行った。韓国調査は計9名で実施し、韓国農業の現状を把握するとともにWTO農業協商などの市場開放による韓国農業への影響などについて調査してきた。具体的には、まず農家の実態を把握するために、20日に稲作農家、21日に生産者組合及び若手の農業経営者を訪問した。また、22日〜24日にかけては、韓国の農業政策や環境政策をはじめ、WTO農業協商、FTA交渉、DDA交渉などに対する韓国側の対応について把握するため、行政機関や研究機関などを訪問した。他方、中国の視察調査では2009年3月8目〜16日にかけて計3名で実施し、日本向けの農産品輸出が多い樟州市の農業経済状況や土地流動化問題について調査を実施し、また、退耕還林制度の視点から北京市にて農業・農村問題を調査した。現在、韓国ではWTO農業協商などに対応するため、輸入農産物との差別化を図ることを目的として、有機農産物などの環境保全型農業の推進に力がいれられている。この韓国農業の動向をはじめ、実地調査によって明らかとなった中国農業の動向を、どのように評価し、共通食料自給率政策のモデルを構築していくかが、今後の課題である。
|