研究概要 |
本年度は平成20年度に開発したモデルを基に,中国雲南省昆明市における灌漑施設の共同管理に関する仮説を提示し,その検証を行った。計量分析の結果は提示された仮説をほぼ肯定するものであった。灌漑管理の出役頻度は,非農業就業機会が乏しく,用水の賦存量が適度に少なく,集落内の経済格差が小さく,共同体の中に様々な社会的交換ゲーム(共同作業の機会)が埋め込まれている集落で高い。反面からいえば,これらの条件を満たさない集落では,「囚人のジレンマ」が発生しやすく,共有資源の保全・管理は悲劇的な結末を迎える可能性が高い。出役と集落規模については,「ただ乗り」する者の排除不可能性とモニタリングにおける規模の経済を理由として,逆U字型の関係が先行研究によって指摘されているが,本研究の分析結果はそれと矛盾しない。集落の水管理人の存在は,共同管理にプラスの影響を及ぼすが,郷政府の関与は出役頻度を減少させる。かかる事実は,共有資源を適正な状態に維持するためには,その管理権限を直接的な利用者に委譲すべきという通説と合致している。 本年度は,農民専業合作社の結成が農家経済に及ぼす影響についても実証分析を試みた。実証分析は,研究代表者が江蘇省南京市横渓鎮で独自に収集したデータを用いて行った。調査の対象となったのは,贈答用の高級スイカを扱う合作社と300戸余の生産農家である。本研究では労働日数当たりのスイカ栽培所得を処理効果(組織参加の経済的メリット)の指標とみなし,合作化の効果を推定した。PSM法によって推定された処理効果は,単純比較のほぼ半分を占める。つまり,合作化が農家経済に及ぼす影響は無視しがたいほどに大きい。所得増加の要因としては,合作社の有利販売(マージン率の高さ),販路の確保,技術情報の提供などが考えられる。また本研究では,合作社が小農を排除する理由と農家が合作組織への参加をためらう原因を明らかにした。合作社が大規模農家との契約を優先させる理由としては,取引費用の節減やリスク・シェアリングが先行研究によって指摘されている。実際に,本合作社の幹部は取引費用の節減を「小農排除」の理由に挙げているし,非社員と比較して社員の方がリスク愛好的であるという事実は,この仮説の妥当性を支持している。一方,プロビット分析の結果,現在の合作社と1950年代の初級・高級合作社の相違を理解していない者や,人民公社に対して強い嫌悪感を抱いている農家ほど合作組織への参加率は低く,反対に,新しい技術や品種の導入に熱心で,周辺に社員が多い農家ほど入社する確率が高いことが明らかとなった。
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