研究概要 |
収穫後植物の主要な鮮度低下要因は,生理活動としての同化産物の消費による保有栄養成分の損耗であり,その遅速は,呼吸によつて制御される。そこで本研究では,収穫後植物内の呼吸酵素の分光学的特性を明らかにすることにより,分光分析により,迅速かつ非浸襲的に呼吸速度を判定する手法を検討した。 本年度はトマト果実を試料として研究を行つた。トマト果実から,松岡の方法(名古屋大学博士論文,1983)に従って呼吸酵素(チトクロームcオキシダーゼ)抽出液を得た。抽出液の分光吸光スペクトルを測定したところ,865nm付近に光の吸収バンドが認められた。牛の心筋から抽出したチトクロームcオキシダーゼを試料とした既往の研究(GriffithsandWharton,J.Biol.Chem.,236,1850,1961)では吸収バンドは830nmであり,本研究と既往の研究では,呼吸酵素の分光吸光特性が異なる結果となった。これは,試料の違い等様々な要因に由来するバンドシフトが起きたためと考えられる。 さらに,トマト果実の呼吸速度を近赤外分光分析で判定する手法を検討した。果実個体の分光反射スペクトルを700〜950nmの範囲で測定するとともに,同じ個体の呼吸速度をガスクロマトグラフィーで測定した後,重回帰分析により,分光吸光スペクトルから呼吸速度を予測するための計算式を構築した。計算式の予測精度を検証した結果,重相関係数は0.77,予測標準誤差は0.11mmo1/kg/hとなった。計算式には,865mm付近の吸光度値も組み込まれていたことから,当該波長における光の吸収が呼吸酵素に由来することと,呼吸速度の予測に有効であることが示唆された。本研究成果は,分光分析による迅速な植物の呼吸速度判定の可能性を示唆するものである。
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