家畜生産において、幼動物の健康管理は最重要の課題である。とくに離乳の前後から種々の感染症に陥りやすいためである。このため、ほ乳期および離乳期の飼料に抗菌物質を添加することが常態となっている。しかし、安全・安心な食料を求める消費者心理から、社会的に家畜に抗菌物質を安易に投与することが許されなくなってきたために無薬あるいは減投薬畜産の確立が急がれている。そのためには幼動物の感染抵抗性の増強をはかるため粘膜免疫系の発達を促す方法論を確立する必要がある。本研究は、子ブタの免疫系の発達を、特に糞便中の分泌型IgA濃度の推移から経日的に把握し、粘膜免疫の発達を促すために最も効果的な介入時期と手段を明らかにしようとするものである。昨年度は腸管内IgA濃度について出生後の成育に伴う推移を50日齢になるまで追跡したところ、糞便中のIgAは、極めて低いまま推移し50日齢になっても回復することがなかった。そのため、今年度は、母豚3腹から5頭ずつの子ブタを選抜し、出荷日齢(170〜180日齢)まで糞便IgA濃度を経日的に追跡した。同時に成獣としてこれらの母豚の糞便の測定も行った。その結果、これまで実験動物で得られていたパターンとは異なり、成熟に伴うIgA濃度上昇のパターンが得られなかった。また、成獣でもその濃度は哺乳仔ブタに比べて著しく低い値を示していた。これらの結果から、仔ブタは、離乳によってIgA濃度が著しく低下したのち、その状態が長く持続するため、育成期や肥育期においても病原体への抵抗力の向上が期待しにくいことがわかった。従って、適切なIgA分泌刺激策を比較的長期にわたって実施する必要があると判断された。また、腸管上皮細胞を新生子豚より単離したが、常法で継代を6代つづけると形態に著しい変異を生じ、成長因子等の検討が必要であることが明らかとなった。
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