研究概要 |
本研究では、ブタ卵の成長途上、減数分裂過程を中心に、初期発生の制御に重要と考えられるタンパク質キナーゼの変動と、それによるプロテオーム制御因子の活性の変化を調べ、分裂制御因子の制御への関わりを解明することを目的として逆遺伝学的手法を用いて解析した。その結果、初期発生(減数分裂過程)の制御に極めて重要なキナーゼとしてWee1Bの存在が明らかとなった、すなわち、減数分裂を制御する中心因子であるM期促進因子(MPF)のCdc2/CyclinBを抑制的にリン酸化するのがWee1Bであり、成長卵が卵巣の卵胞内で減数分裂を第1減数分裂前期で停止(1次停止)している間、この活性はcAMP依存性キナーゼ(PKA)によって活性化しており、そのためMPF活性が低く維持されていることが1次停止の主因であることが示された。卵内に蓄積されている母性mRNAの翻訳制御にかかわるCPEBと、これをリン酸化して制御するAurora Aの機能解析、およびmRNAの3'非翻訳領域の解析から、この間Cyclin B1の合成はCPEBにより抑制されていること、一方Cyclin B2はCPEB非依存的に継続的に合成されているが、タンパク質分解因子としてのAPC/Cdh1により分解を受け、低濃度に維持されていることも1次停止維持の要因であることが示唆きれた。減数分裂再開のシグナルによりcAMPが低下しPKA活性が低下するとWee1B活性の低下と脱リン酸化因子Cdc25の活性化によりMPF活性の抑制が解除され、MPFによりAuroraAが活性化されると,CPEBがリン酸化されCyclin B1の合成が開始し、APCが競合阻害を受ける結果Cyclin B2も蓄積が促進され、MPF活性の上昇、核膜崩壊が導かれることが示唆された。一方、発生能を持たない成長途上の卵では減数分裂再開のシグナルによりcAMPが低下してもPKA活性が低下しないことが発生能の欠如の主たる原因であることが示唆され、新たな研究の必要性が示された。本研究により細胞分裂能とプロテオーム制御因子およびタンパク質キナーゼとの関連の一部が解明された。
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