精子は雄のみが、そして卵は雌のみが作り、それらの受精によって個体が作られることは常識である。個体の性は、常にX染色体を持つ卵と、YあるいはX染色体を持つ精子の種類によって受精時に決まる。一方の性を決定づけられた個体が生後に性転換することは、魚類以下の下等脊椎動物を除いてあり得ない。 MRLマウスの精巣は、1)減数分裂中期特異的アポトーシスの出現、2)熱ショック耐性精母細胞の存在という表現型を持つ。遺伝学的解析から、これらはDNA修復に関与するエクソヌクレアーゼ1(Exol)の変異と強く連鎖することが見いだされてきた。上述のMRLマウス精巣に見られる特異な表現型は、Exol変異による精祖細胞の異常な分裂・分化に起因すると考えられた。発想を転換すれば、MRLマウスの精祖細胞は広域的組織幹細胞と言える。我々は、MRLマウスのさらなる表現型を解析する過程で精巣に卵細胞を発見し、その解析から哺乳類での全く新しい生殖生物学を展開したい。 生後0-50日のMRLマウス精巣のホールマウント標本を作製し、卵細胞数を計測した。その結果、精巣内に出現する卵細胞数は生後14日目に最大約1.2個/精巣であった。卵細胞は直径約50μmで明瞭な透明帯に囲まれていた。その周囲には1層からなる卵胞上皮細胞が存在した。電顕的に卵細胞は多数の微絨毛を持ち透明帯に刺入し、細胞膜直下には多精子受精抑制に働くとされる皮質顆粒が出現していた。MRLマウス新生子精巣ではZP-1などの卵細胞特異的遺伝子の発現が確認された。 これらの所見は、MRLマウス精巣で明らかに卵細胞が産生される事実を示す。雄であるのに卵細胞を産生する経路について2つが考えられる。すなわち、始原生殖細胞の異常あるいは生殖巣の異常である。今後はその解析に集中する。
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