今年度は、昨年度に続きMRL精巣内卵細胞の卵細胞としての性質及び機能について検証した。哺乳類の生殖細胞性分化は胎子期に雌性生殖細胞が減数分裂に移行することから始まる(マウス:胎齢13.5日目)。また、胎子期から出生直後の卵巣では、原始卵胞の形成が起こる。 胎子精巣において減数分裂前期の特異的マーカーであるSYCP3を検出した結果、MRLマウス精巣では胎齢13.5日から連続して陽性細胞が観察され、これらの細胞は中腎との結合部に近い精巣辺縁に多く認められた。一方、B6マウスでは胎齢14.5日から15.5日に、わずかな陽性細胞が一過性に認められたのみであった。次に胎齢18.5日の精巣で、SYCP3で減数分裂を、NOBOXで卵細胞形成を検出した。その結果、SYCP3とNOBOXの陽性細胞はMRLマウスでのみ検出され、これらの細胞の存在領域が一致していた。さらに、減数分裂マーカーであるDMC1を用いてNOBOXとの二重染色を行った結果、胎齢18.5の生殖腺において、DMC1とNOBOXの陽性細胞は同一であることが分かった。出生後の精巣内卵細胞における卵細胞特異的タンパク質であるZP3とNOBOXを検出した結果、卵巣内卵細胞と同様にZP3は透明帯に、NOBOXは核にそれぞれ局在した。精巣内卵細胞の精子受容能力を検討した。核を特異的に染色するHoechstを導入した卵細胞に、媒精した精子を加えた結果、卵細胞へ侵入しHoechstで染色された精子の核が観察された。このことから、精巣内卵細胞は精子受容能力を有することが確認された。 MRLマウス胎子精巣では本来阻害されるはずの減数分裂が開始、進行することがわかった。また、精巣内卵細胞は、始原生殖細胞から派生し、精子受容能力を有するなど、卵巣内卵細胞と同様の性質を有することが明らかになった。
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