豚コレラウイルスの病原性発揮に関与すると考えられている自然免疫回避機構を分子レベルで解明することを目的とし、ウイルス非構造蛋白N^<pro>の点変異体や欠損体を作製し、1型IFNの産生抑制に必須なアミノ酸領域を決定した。その結果、1型IFNの産生抑制に必須なアミノ酸は、比較したウイルス株の組み合わせにより大きく3パターンに分けられ、(1)C112Rの変異、(2)D136Nの変異、(3)H5Y、L8F、P17Sの3つのアミノ酸の変異のいずれかであることがわかった。この自然免疫の調節に関与するN^<pro>上のアミノ酸の変異が、豚に対する病原性発現にどこまで関与するかを調べるため、強毒豚コレラウイルスの該当アミノ酸領域を自然免疫を誘導するタイプのN^<pro>に置き換えた変異ウイルスを作製した。本ウイルスはN^<pro>上のアミノ酸変異により、自然免疫、特に1型IFNを誘導するウイルスに変わっていた。本ウイルスを豚に接種し、ウイルス血症、発熱、致死率などを指標に病原性を確認した。その結果、変異ウイルスの病原性は、元となる強毒株に比べ病原性が下がるものの、弱毒生ワクチン株の病原性ほどに弱毒化されていないことがわかった。以上より、豚コレラウイルスのN^<pro>は、1型IFNを中心とした宿主の自然免疫応答を抑制し、豚における病原性発揮の要因の1つとなっているが、N^<pro>の有する自然免疫調節機構だけでは豚コレラウイルスの病原性を説明できないことも同時に明らかとなった。
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