研究概要 |
植物における重金属ペプチドのうち,よく研究されているものは,ファイトキレーチン,メタロチオネインである。これらは,システイン残基によって金属と結合して細胞内に貯留される。しかし,最近の多くの研究から,これら既存のペプチドのみで,植物におけるすべての金属耐性を説明できないことが明らかになってきた。研究代表者は,水ストレスタンパク質デハイドリンの研究を進める過程で,His型金属結合ペプチドという新しいジャンルの金属結合ペプチド群が存在し,ファイトキレーチン,メタロチオネインの働きを補助,代替している可能性があるとの仮説を立てた。本研究では,その仮説を証明すべく,1)His型金属結合ペプチドの網羅的スクリーニングとカタログ化,2)His型金属結合ペプチド特にデハイドリンの金属結合特性と新規生理機能の解明を行う。平成19年度では,1)の研究を進めた。計画した様々なスクローニングを実施した結果,シロイヌナズナに配列上求める性質をもった遺伝子を単離することに成功した。この遺伝子の類縁遺伝子も含め,AtHIRP(Arabidopsis thaliana His rich peptide)1及び2と命名し,大腸菌によるタンパク質合成に成功した。金属イオン結合性を調査したところ,亜鉛と強く結合することがわかった。また,その結合がイミダゾールで解離することから,Hisによって金属と結合する新規の金属結合ペプチドであることが判明した。現在,AtHIRPを,われわれが提唱しているHis型金属結合ペプチドの重要な候補として注視し,本タンパク質の生化学的性質を調査するとともに,各種形質転換体の作成を進めている。
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