研究課題
本研究は、環境汚染物質有機スズ(TBT)に対する海洋の微生物の応答を生化学的に解明することを目的とし、平成19年度の目標はTBT耐性遺伝子の特定と詳細な解析であった。まずTBT耐性菌Pseudoalteromonas sp. M-1から得られているTBT耐性遺伝子群のなかから、SecAを特定し、サブクローンを行って大腸菌で発現させた。その結果、SecAを発現した大腸菌はTBT耐性能を獲得した。SecAは細胞質から新生タンパク質を外部へ運搬する際に働くATP依存型トランスポーターであるが、今回の研究でSecAの新しい機能が明らかになった。今後はタンパク質レベルでの耐性機構解明と本遺伝子の発現調節について研究を進める。TBT排出の新しい機構が発見されたことは有機金属耐性機構解明の新たな前進である。さらに、耐性菌Pseudomonas aeruginosa 25WではATP依存型ポリアミントランスポーター遺伝子が特定された。くわえて、イオン勾配型ポリアミントランスポーターとポリアミン代謝酵素両遺伝子のセットがTBT耐性に関与することが明らかになった。このように、いくつかのトランスポーターでTBTが排出されていることが複数の菌種で明らかになったことは、TBT耐性機構の非特異性と多様性を示しており、今後の詳細な解析で海洋細菌の特異なTBT耐性機構解明が期待される。また、Pseudomonas aeruginosa 25WではTBT暴露で転写および翻訳系のタンパク質発現が影響を受けている事が明らかになった。TBT毒性はATP合成系の阻害に基づくと考えられているが、新たな阻害点が示唆された。以上の結果は、海洋細菌のTBTへの応答を明らかにする過程として重要な知見を与えた。今後遺伝子レベルから生化学レベルの研究へ発展させ、さらに生態系での群集レベルでの応答研究へ展開する予定である。
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