つくば市と福岡市の2地域において、コシヒカリ(つくば市と福岡市)とヒノヒカリ(福岡市)の2品種の健全イネの葉圏における細菌集団構造の基礎的知見を得る目的で、全細菌数及び培養可能細菌の性状解析を行った。また、本年度は昨年に続きムギでの細菌数の比較も行った。つくば地区では昨年開発した全細菌測定法を用いたイネ、ムギの全細菌数を調べ、培養菌数との比較を行った。 その結果、イネにおいては、福岡、つくば地区の3カ年の試験結果から「培養できる細菌」に比べ、全細菌が有意に多いことが明らかとなった。また、イネ、ムギとも葉鞘洗浄液中の「全細菌数(培養できない細菌を含む)」は「培養可能な細菌」より多かったが、その割合は、イネ(約10倍程度)より著しく高かった(ムギ:100倍以上)。 さらに、本年は、ムギで培養可能菌が全細菌数の100分の1以下になる原因は、低温などの環境ストレスによるVBNC化ではないかと仮説をたて、1)VBNC化を減らすとされている活性酸素阻害剤(ピルビン酸)を入れた培地を用いた分離、2)菌密度に及ぼす気象要因の影響評価を行った。その結果、ピルビン酸の影響は認められなかったが、培養可能細菌数は、サンプリング日までの5日間の平均相対湿度などが大きく影響している可能性が示唆された。 以上から、3カ年の研究で、まず葉鞘洗浄液の全細菌数評価手法を開発するに成功した。次に、それらの技術を基に、イネ、ムギにおける全細菌数と培養可能細菌数の比率が安定していること、しかし、その比率がイネとムギで異なることを明らかにした。さらに、ムギで培養可能細菌数の全細菌数に対する比率がイネに比べ著しく少ない原因として、気象要因が関与していることが示唆された。植物体における全細菌数、培養可能細菌数の評価をした例は世界で初である。
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