害虫の被害を受けた物は特異的な揮発性物質(SOSシグナル)を放出し、これに天敵が誘引される。自然生態系ではSOSシグナルを介した天敵の働き(生態免疫システム)が機能しているが、農業生態系では十分に機能していない。本研究では農薬が生態免疫システムに及ぼす阻害効果に注目する。19年度は、SOSシグナルの誘引作用に及ぼす農薬の忌避効果の実証など、致死濃度以下での影響を検討する。主に2種類の実験系を用い研究を実施した。 1)マメ科植物・ナミハダニ・捕食性天敵類系。天敵ミヤコカブリダニを用いた生物検定の結果、ハダニ被害植物のSOSシグナルと同程度の高い誘引活性成分(サリチル酸メチル)を発見した。また、各種農薬に対する感受性試験を実施し、殺虫効果等に関する知見を得た。さらに、殺虫効果が低い薬剤を対象に天敵のパフォーマンスに及ぼす影響を調査した結果、致死濃度以下での産卵数減少が認められた。天敵昆虫に関しては、ケシハネカクシ等に対する各種農薬の殺虫効果に関する知見を得た。 2)アブラナ科植物・コナガ・コナガコマユバチ系。合成ピレスロイド系のペルメトリン乳剤において天敵忌避作用が認められたが、コナガ被害コマツナ株からのSOSシグナルの天敵誘引作用よりも忌避効果は弱く、農薬散布後のコナガ被害株に天敵が定位するという興味深い現象が観察され、想定外の成果を得た。株上での天敵のパフォーマンス及ぼす影響を調査したところ、餌探索行動や滞在後の生存に対する悪影響が認められた。以上の結果は、農薬の殺虫効果が高く、一方で忌避効果が弱い場合、SOSシグナルに誘引された天敵が植物上で死亡するか、もしくは行動異常を起こす可能性があることを示唆している。 3)その他の成果。天敵カブリダニや天敵昆虫を用い、農薬等の各種化学物質の天敵忌避作用を効率的に検出するための生物検定法および化学分析法を開発した。
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