自然生態系では害虫の被害を受けた植物由来のSOSシグナルに天敵が誘引されることで植物上での害虫密度が抑制されているが、農業生態系ではこのような生態免疫システムは十分機能していない。本研究は農薬が生態免疫システムに及ぼす阻害効果に注目する。本年度は、前年度の研究進展が顕著であったアブラナ科植物・コナガ・コナガコマユバチ系を主な対象とし、SOSシグナルの誘引作用に及ぼす農薬(ダイアジノン)の忌避作用の程度について、散布後の経過日数との関係を検討した。 コナガ被害コマツナ株(農薬無散布)と農薬処理(1、24時間経過)したコナガ被害コマツナ株とを選択させたところ、有意に多くのハチが前者に定位行動を示し、農薬による忌避効果が見られたが、処理後72時間の被害株では忌避効果は見られなくなった。農薬処理1時間後の被害株上では滞在時間が短く、滞在終了後のハチ成虫の死亡率は高かったが、農薬処理24時間および72時間経過した被害株上での滞在時間は長く、滞在終了後のハチ成虫の死亡率は低かった。滞在期間中の寄生率を比較すると、農薬処理1時間後の被害株上での寄生率は低かったが、農薬処理24時間および72時間後の被害株上では寄生率が有意に高くなった。これらの実験条件下では、農薬(ダイアジノン)処理後24~72時間経過した被害株上においては、天敵寄生蜂の寄主探索行動や生存率に及ぼす影響は小さかったが、農薬処理72時間経過した被害株上で寄主探索を繰り返す実験条件下においては、探索後のハチ成虫の死亡率は高くなることが明らかになった。
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