研究概要 |
ボツリヌス毒素複合体は,神経毒素(NTX)とレクチン活性を持つタンパク質群(HA)及び機能未知タンパク質群から構成され,消化管内において上皮細胞の基本的な生理作用を巧みに利用し,上皮細胞層バリヤーを通過してNTXを体内循環系に送り込んでおり,この毒素進入経路にHAタンパク質群,特にHA1が重要な役割を果たしていることが我々の研究で明らかとなった。そこで、この巧みな機構をさらに詳細に解明し,NTXに代わり有用高分子物質のスムーズな体内移行試薬や経口ワクチンとしての利用を視野に入れたヒトおよび小動物へのドラッグデリバリーベクターの創製を試みることとした.また,HA1の2カ所ある糖結合クレフト内の特定アミノ酸を別の種類のアミノ酸に置換すると,置換したアミノ酸ごとにムチンに対する結合性や認識糖鎖構造が少しずつ異なる変異体が得られることを見いだし、等温滴定カロリメトリー他を用いてそれら変異体の各種糖に対する結合定数等を数値化して各変異体ごとの詳細な糖結合特異性を明らかにした(この成果は現在投稿中). 本年度は,これらの変異体を全てストレプタグフュージョン体として大腸菌で発現させる系,及び精製法を確立し,ワイルドタイプも含めて五種類の糖鎖認識が異なるHA1分子を大量に精製・取得した.一方,ストレプトアビジンに変異を加えストレプタグ付きHA1を強力に結合できるように改変したストレプトアビジン変異体も大量に発現,精製し,これらをポリマー化して1分子に結合できるHA1を多価としたものを作製した.現在は,用いるHA1の種類や混合比を変えることによる各種ムチンや糖鎖への結合力の変化を検討しており,ヒトや小動物でのターゲットとする部位へ特異的に結合できるHA1複合体の作製準備段階にある.
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