本研究では、タンパク質の脱リン酸化による細胞機能制御の全体像を明らかにするために、出芽酵母のタンパク質脱リン酸化酵素(PPase)を対象に網羅的な機能解析を行ってきた。その中でチロシンPPase Siw14が、リン酸化転写活性化因子Gln3の細胞内局在を制御することを明らかにしてきた。また、Gln3は複数のリン酸化部位を有し、それぞれのリン酸化部位が細胞内局在と転写活性化能を制御する事を示唆してきた。しかし、Gln3のリン酸化部位は明らかにされていない。そこで本年度は、Gln3の細胞内局在および転写活性化能を制御するリン酸化部位を特定することを目的とした。まず、Gln3の核局在に必要であると示唆されている344、347、355番目のセリン残基をアラニンに置換した結果(S344A、S347A、S355A)、S355Aw[/span>CafやRapの有無に関係なく核に局在し、CafやRapを添加しても標的遺伝子の発現を誘導しなかった。一方、S355Dを構築したところ、野生型と同様細胞質に存在し、CafやRapを添加すると核に移行して標的遺伝子の発現を引き起こした。この事から、この355番目のセリン残基は、リン酸化されることによってGln3の転写活性化能を制御している事が分かった。しかし、S355A、S355Dは、どちらも野生型同様、CafおよびRapによって脱リン酸化されたため、355番目のセリン残基はCafやRapによって脱リン酸化される部位ではないことが示唆された。そこで、この脱リン酸化される部位を同定するため、3つに分割したGln3を構築したところ、Gln3vコ/span>N末端側とC末端側を欠如した部分Gln3タンパク質(301-509)が、CafおよびRap添加時に脱リン酸化された。これに対し、N末端側のみからなる部分Gln3(1-300)と、C末端側のみからなる部分Gln3(510-729)は、CafおよびRap添加時に脱リン酸化されなかった。これより、301~509番目のアミノ酸残基の中にCafおよびRapによって脱リン酸化される部位が存在する事が示唆された。
|