1.Ecteinascidin 743の合成研究: 抗がん剤として昨年度から欧州で上市されているEcteinascidin 743の不斉全合成研究を行った。文献既知のフェニルアラニン誘導体のTroc保護の窒素原子をプロパルギル化したのち、金触媒を用いて分子内のカルボン酸とアルキンの6-endo選択的な分子内ヒドロラクトン化を行い、続いてフェニルグリシン誘導体との触媒を必要としないカップリング反応と酸触媒下の分子内縮合反応を組み合わせることにより、重要中間体であるジヒドロピラジノン体を短行程で合成することに成功した。さらに、分子内に存在するエナミド部位が酸化に対して高い反応性を有する特性を利用し、臭素化を引き金とする酸化的Friedel-Crafts反応により3環性exo-エナミド体へと変換した。その後、さらに7工程を経てEcteinascidin 743の基本骨格である5環性化合物へと誘導した。 2.パラジウム触媒を用いたダブル環化反応の開発と全合成への応用: 昨年度報告したPd(0)触媒によるジエンカルバミン酸クロリドのオキシインドール閉環反応の応用として、スピロ構造を有する天然物ElacomineとIsoelacomineの全合成を検討した。すなわち、カルバミン酸クロリドの遷移金属により活性化とジエンへの挿入反応で生成するπアリル金属錯体に対して分子内のアミノ基を求核剤とするアリル位アミノ化反応により一挙に二つの環を形成させスピロ骨格を構築するものである。検討の結果、Pd触媒のみでは所望の反応は進行しなかったが、共触媒としてBi(OTf)_3を触媒量加えることでダブル環化がスムーズに進行することを見出した。続いて、接触還元と脱保護を経て目的天然物の全合成に成功した。 一方、同じジエンカルバミン酸クロリドをPd触媒存在下にジシランを作用させると極性転換が起こり、オキシインドール環化と同時に分子内の求電子部位との反応が可能になることを見出した。さらに応用として、環化と櫻井反応を組み合わせることで、3つの不斉炭素を全て制御可能なスピロオキシインドール構築法を新たに開発した。
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