研究概要 |
本年度は,キラルカルバニオンの生成機構および立体化学的安定性に関する以下のような成果を得た. (1)アリルシリケートのS_E'反応における立体過程の解明 当研究室で開発したエポキシシラン転位を用いて発生させたγ-シリルーγ-ヒドロキシアクリロニトリル誘導体を基質とし,塩基処理によるS_E2'型プロトン化反応の立体過程を検討した.その結果,アリルシリケートのS_E2'型プロトン化は,炭素-ケイ素結合の逆側,すなわちアンチモードで進行することが明らかになった.また,従来寿命がほとんどないと考えられていたシアノ基の隣接位のキラルカルバニオンが最大77%eeの不斉収率で捕捉可能であることが判明した (2)[2,3]-Wittig転位を用いるキラルカルバニオンの立体化学的安定性の評価 タンデムエポキシシラン転位/[2,3]-Wittig転位の反応機構の解明の仮定で,[2,3]-Wittig転位がキラルカルバニオンのラセミ化の速度と競合し得るほど速い仮定であることが明らかになったので,キラルカルバニオンの立体化学的安定性の評価法として使用可能ではないかとの着想を持ち検討を開始した.3-位置換1-propenyloxy-1-pheny1-2-propen-1-y1カルバニオンをプローブとして用い,[2,3]-Wittig転位成績体の不斉収率に基づき,Me, Ph, CN, SiMe_3, SO_2Ph, P(0)Ph_2, P(0)(OEt)_2基に隣接するキラルカルバニオンの立体化学的安定性を定量的に評価する方法を検討した.その結果,従来法では困難であったシアノ基などでも比較が可能であることが判明した.また,キラルカルバニオンとアニオン安定化基の間に二重結合が存在するか否かにより,安定性が大きく変動することも明らかになった.
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