1. 昨年度に引き続きイノラートとカルボニルとの高度オレフィン化反応とその応用を検討した。これまでにアルキニル基がtorquoselectivity概念においては高い電子供与性を有することを明らかにした。本年度はアルキン酸エステルを基質としたところ、アルコキシル基がoutwardに優先的に回転し、E体のβーアルコキシエンインカルボン酸が得られた。アルキニル基が相対的に電子受容性置換基として機能していることを示している。次に、本反応の生成物の環化反応を検討したところ、DMF中炭酸銀を触媒とすると、選択的に5-exo環化が進行しテトロン酸が得られた。一方、塩化メチレン中炭酸銀に酢酸を共存させると、選択的に6-endo環化が進行しピロンを得ることに成功した。テトロン酸は生物活性天然物に多く含まれる構造ユニットであるので、本反応を利用して各種テトロン酸誘導体を合成しその細胞毒性試験を行なったところ、最高でIC50=25μMの毒性を示す化合物を見出した。今後の抗癌剤等の開発のヒントになると考えられる。 2. 昨年度までにイノラートによるエステルのオレフィン化反応による生成物を利用した高速触媒的ナザロフ反応の開発に成功した。本年度はこのナザロフ反応を利用したステモナアルカロイドの合成研究を行った。ステモナアルカロイドはビャクブに含まれる高度に置換された5員環を有するアルカロイドであり、天然からの単離精製は困難を極め、その薬理活性の詳細は不明である。今回、保護基を詳細に検討したうえで高度置換ジビニルケトンを合成し、ナザロフ反応を検討したところ、塩化鉄を用いることで速やかに反応が進行することを見出した。更に、官能基変換後、C-H結合に対する路地有無触媒によるアミネーションにより、全ての置換基を適切に配置したシクロペンテノンユニットの合成に成功した。全合成に向けた研究の礎となろう。
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