今年度は、実際に動物が排泄するセレン代謝物をモデル植物に曝露し、植物体内でのセレンの代謝がどのように行われているのかを解析するための検討に着手した。これまでの植物に対するセレンの曝露形態は無機のセレン化合物に限られていたため、実際の生物圏におけるセレンの循環を解明する上で、本研究の成果が重要な知見を与えることが期待された。想定したとおり、無機のセレン化合物と有機の動物由来の代謝物では植物に対する代謝過程が異なり、有機のセレン化合物で優位に機能すると考えられる新規の代謝経路の存在を示す成果を得つつある。この経路が解明されれば、必須元素としてのセレンを有効的に植物から摂取する方法を提案したり、環境汚染物質としても懸念されるセレンの植物を利用した浄化法の提案につなげられたりできることが期待される。 一方、生物圏におけるセレンの循環を考える上で、セレンと同族の元素をどのように生物が識別しているのかに関する検討も実施したところ、識別を担う生体内因子の存在が確認できた。さらに、セレンと協調して生体内の酸化還元を担う銅との機能的な相補関係を解明することにより、生物間における抗酸化ミネラルのクロストークを検討した。これにより、動物細胞内における新たな銅の制御機構を明らかにすることができた。この成果は、セレンと同じ抗酸化ミネラルであり、特に神経変性疾患の原因となる銅の代謝異常の機構に関する新たな知見を提供し、アルツハイマー病、プリオン病あるいは筋萎縮性側索硬化症などの診断、治療及び創薬に貢献するものと期待される。
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