研究概要 |
哺乳類の脳ではグルタミン酸作動性神経終末のシナプス小胞内に亜鉛が存在する。この亜鉛は神経活動に伴いグルタミン酸と共に放出され、シナプス伝達やグリア細胞の活動を調節する。記憶や学習の基盤はシナプスの可塑的な変化と考えられており、シナプス伝達効率が上昇した状態が長期間持続する長期増強(LTP: long-term potentiation)は、その一つである。本研究では、Schaffer Collateral-CAl錐体細胞間のLTPに対する亜鉛の作用を検討した。 100Hz,1 secのテタヌス刺激によって、140.2±9.6%のCAl LTPが誘導された。このLTPは細胞外亜鉛をキレートするCaEDTA(1mM)存在下で有意に抑制された(114.2±4.0%)。また、テタヌス刺激時に流入した細胞内亜鉛をキレートするために、ZnAF-2 DA (100μM)を予め海馬スライスに取り込ませた場合にも抑制された(1155±7.9%)。一方で、塩化亜鉛(5μM)存在下では逆に増強された(172.7±16.4%)。亜鉛存在下でのLTPの増強は50-10Hzのテタヌス刺激においても観察された。しかしながら、N-methyl-D-aspartate (NMDA)受容体阻害薬である2-amino-5-phosphonovalerate (APV)存在下ではLTPは誘導されず、亜鉛による増強作用も見られなかった。 以上より、Schaffer Collateralから放出された亜鉛イオンは、LTPを誘導する電気刺激の閾値を低下させること、NMDA受容体の活性化を介して細胞内に取り込まれてLTPを促進的に調節することが示唆された。今後、亜鉛イオンによるCAI LTP促進作用の生理的意義を明らかにする必要がある。
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