研究概要 |
我々は昨年度までに、ヒト胎盤灌流実験と妊娠ラットを用いた胎児毒性実験の結果にPK/PDモデルを適用することで非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)の胎児毒性を予測評価する手法を新たに開発した。NSAIDsのうちOTC医薬品としても頻用されるibuprofenは妊娠末期に禁忌とはされていない。本年度は、ibuprofenを対象として妊娠末期使用のリスクを定量的に評価することを目的とした。Ibuprofenの胎盤透過性をヒト胎盤灌流法により評価し、母体-胎盤間、胎盤-胎児間のPKパラメータを算出した。これをもとに、妊婦にibuprofenを投与した際のヒト胎児血漿中濃度推移を推定した。また、ラットにおけるin vivo胎仔血漿中濃度-動脈管収縮作用をEmaxモデルを用いて評価し、胎仔動脈管収縮に関するPDパラメータを算出した。推定したヒト胎児血中濃度推移に得られたラットPDパラメータを外挿し、妊娠末期のibuprofen使用時の経時的な胎児動脈管収縮作用を推定した。Ibuprofenの胎盤透過性を表すTPTss値は単純拡散マーカーであるantipyrineの約70%であり、昨年度までに実施したsalicylic acid、diclofenacと比較して良好な透過性を示した。これらのPKパラメータを用いて予測されたヒト胎児へのibuprofenの移行は速やかで、胎児におけるTmaxは3時間程度であり、母体への投与後4時間以降にて、胎児血漿中濃度は母体を上回った。ラット胎仔へのibuprofen移行性はヒトでの予測と同様に良好であったが、胎仔血漿中濃度推移に対して動脈管収縮度の発現に遅れが見られた。効果コンパートメントモデルを用いて算出したラットPDパラメータは、EC50,uが0.104μg/mL、Hill係数γが0.372であった。妊娠末期のヒトがibuprofen 150-400mg/doseを服用した場合、動脈管内径が50-60%に収縮し、1日3回連続投与した場合、その収縮は持続すると推定された。本研究により、ibuprofenの妊娠末期胎児毒性が定量的に評価でき、ヒトにおいても十分に危険であることが示唆された。
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