本研究は、高分子医薬の経肺投与ドラッグデリバリーシステム(DDS)開発のための基盤を確立することを目的としている。本年度はラット肺胞上皮の初代培養細胞、肺胞上皮II型由来のRLE-6TN細胞、ラットを用いて、インスリンを中心に、輸送機構解析とその制御について検討し以下の結果を得た。 1) ラット初代培養肺胞上皮I型・II型細胞一個あたりのFITC-インスリン取り込みクリアランスは、他の高分子(IgG、トランスフェリン、4および70kDaデキストラン)と比較して極めて高く、インスリンの取り込み過程には特殊なシステムが関与することが示唆された。FITC-アルブミンの取り込みは、FITC-インスリンと比較してI型細胞では同程度であったが、II型細胞ではさらに高い値を示した。 2) ラット肺胞上皮II型由来のRLE-6TN細胞において、クラスリン重鎖に対するsiRNA処置でFITC-アルブミンの取り込みが低下し、阻害剤を用いた機能解析実験と対応する結果が得られた。現在、エンドサイトーシスレセプターであるメガリンに対するsiRNAを用い、FITC-インスリンやアルブミンの取り込みに対する影響を解析中である。 3) RLE-6TN細胞へのインスリン取り込みに対するカチオン性ポリアミノ酸の影響を検討し、ポリ-L-オルニチン、ポリ-L-リジンでFITC-インスリンの取り込み促進効果を認めた。そのメカニズムについて、少なくとも一部はカチオン性ポリアミノ酸によるインスリンの細胞膜表面への結合増大とそれに伴う取り込み増大であることが示された。カチオン性ポリアミノ酸によるインスリン取り込み促進効果はラットを用いたin vivoインスリン経肺投与実験でも観察され、また吸収促進のための至適な量比があることも判明した。 これらの結果は、高分子医薬のDDS開発に向けて、有益な情報を提供するものと考える。
|