研究概要 |
医薬品の有効性や毒性を予測するための基本的な薬物動態情報は、通常まず実験動物を用いた試験によって得られる。特に薬物動態上重要な肝動態については、薬物代謝酵素の種差が大きく、動物試験からヒトへの外挿が容易ではない。本研究では同様に肝臓における薬物処理に働く肝実質細胞の血液側細胞膜に備わるOATPトランスポーターの種差について検討を行った。OATPトランスポーター分子は薬物動態に深く関わっているが、ラット、マウスなど動態試験に用いられる動物とヒトともに複数のトランスポーター分子種が肝臓に存在し、相互に類似しながらも異なる特性を有するためである。 多様な薬物の中で肝細胞への取り込みがOATPトランスポーターを介していることが推定されるβラクタム抗生物質に着目した。まずは、著しく胆汁中移行性が高いナフシリンに着目し、そのラットならびにヒト肝細胞で関与するOATPトランスポーター分子の同定を行った。ヒト凍結肝細胞、初代培養ラット肝細胞、各種ヒトOATPならびにラットOatp分子発現系、およびラットin vivo体内動態分析など、多様な手法による解析を行った。その結果、ヒトにおいてはOATP1A2, OATPAB1, OATP1B3, OATP2B1など複数のOATP分子がナフシリン輸送に働いたが、OATP1B3の寄与率が50%以上、OATP1B1が25%程度と推定された。一方、ラットについてはOatp1,2,4が肝細胞で働くが、oatp2が90%程度の寄与を有していることが推定された。これらの結果よりヒトとラットではナフシリン輸送について、OATP1B3とOatp2がそれぞれ対応していることが示された。さらに、他のβラクタム抗生物質についても多くは同じ傾向が見られたが、一部は全く異なる結果も得られ、さらにヒトとラット間での相違の構造活性相関的な解析の必要を展開する。
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