研究概要 |
脂質滴は細胞内脂質環境の制御だけでなく,小胞輸送,シグナル伝達などにも関わるオルガネラであることが明らかになってきた.我々はリポ蛋白質産生能を持つ肝細胞由来株ではApolipoprotein B100(ApoB)が脂質滴周囲に貯留する構造(ApoB-crescent)を見出し,脂質滴がプロテアソームやオートファジーで分解される運命にある蛋白質を一時的に貯蔵する機能を持つことを報告した(Ohsaki et al,2006).本年度の研究ではApoB-crescentに貯留するApoBが既知の処理経路とどのような関係にあるのか,またApoB-crescentの構造的基盤について探索した.その結果,ApoB-crescentのApoBはER内腔の可溶性蛋白質であるMTPの作用で脂質付加されたpre-VLDLであること,ApoB-crescentにはApoBだけでなくER可溶性シャペロン,ER膜蛋白質,分泌蛋白質が存在すること,ApoB-crescentが脂質滴に扁平なER槽(以下,扁平槽)が融合した構造であり,ApoBや上記の可溶性蛋白質が扁平槽内にあること,扁平槽の外側は単位膜構造を示すのに対し,内側(脂質滴側)には膜構造が見られないこと,さらに扁平槽がフリーコレステロールを豊富に含み,streptolysin Oなどで透過性になること,ApoB-crescentには脂質付加されたApoBが強固に結合していることなどを見出した.ApoB-crescentの構造はトポロジカルには従来想定されてきた脂質滴形成モデルの中間段階(脂質エステルがER膜の内部に蓄積する状態)と同等である.今回の結果は,脂質二重層の中に脂質エステルが蓄積し得ることを初めて明確に示したものであり,脂質滴形成とVLDL形成過程の密接な連関を示唆する.
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