本研究は、生体深部からin vivoで時計遺伝子発現リズムを、リアルタイムに連続測定するシステムを構築し、これを用いて視交叉上核(SCN)に局在する哺乳類の中枢時計が環境変化に応じてリズム変位を示し、さらに全身の組織時計を統合するメカニズムを明らかにすることを目的として行った。ルシフェラーゼレポーター遺伝子の導入により時計遺伝子発現を長期計測する技術革新は、生物時計研究を大いに進展させた。しかし、哺乳類では、遺伝子発現計測は未だに培養組織に限られ、情報の感受からリズム出力までを維持した個体の生理機能解析には、機器開発を含め多くの障害が存在する。そこで、初年度に開発した光ファイバーによる発光計測系を用い、これまで不可能であった、個体への光照射をはじめとする環境刺激に対する遺伝子応答の計測を、無拘束覚醒マウスで行った。動物は、時計遺伝子Per1活性を発光にてモニタリング可能なPer1-lucトランスジェニックマウスを用い、光ファイバーをSCN直上に固定して発光を連続計測した。その結果、SCNのPer1発現リズムには明瞭なサーカディアンリズムが確認され、そのリズムには部位により行動リズムとほぼ同様の移行期を示す部位のあることが明らかとなった。また、嗅球からの発光リズムにも明瞭サーカディアンリズムが確認された。本研究結果は、日長に応じたリズム位相調節が、視交叉上核内の細胞によりそれぞれ異なることを示唆した研究代表者らの2007年の結果を支持するものであり、中枢時計内には異なる位相をもつ複数の振動細胞ネットワークがあり、移行期をもつ中枢時計内振動細胞群が行動リズムを支配していることを強く示唆することが分かった。
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