研究概要 |
AMPキナーゼ(AMPK)は、細胞内AMP濃度上昇によって活性化し、グルコースや脂肪の利用、遺伝子発現、蛋白合成を調節してATPを回復させる酵素であり、"metabohc sensor"、"fuelgauge"として知られている。私どもは、AMPKが、細胞内エネルギー代謝を調節するだけでなく、レプチンやアディポネクチンの細胞内シグナル伝達分子として摂食行動、代謝を調節することを報告した (Nature,2002,2004)。レプチンを投与すると視床下部神経核のうち、弓状核と室傍核において選択的にAM:PK活性が低下する。また、室傍核は古くから摂食行動調節に重要な神経核として知られている。そこで本研究では、レンチウイルスを用いて活性型AMPKをマウス視床下部室傍核の神経細胞に選択的・恒常的に発現させ、摂食量と体重の変化を調べた。その結果、室傍核に活性型AMPKを発現させたマウスは過食となり肥満することが判った。興味深いことにこのマウスは、炭水化物食を好み高脂肪食を嫌うことをみいだした。さらにこのような食餌嗜好性の変化は、AMPKによる室傍核での脂肪酸酸化の変化によることも見出した。 室傍核AMPKによる食餌嗜好性の調節機構が生理的にどのような意義を有するかを明らかにする目的で、室傍核AMPKを活性化させる絶食の効果を調べた。その結果、正常なマウスを一昼夜絶食してから再摂食させると、マウスは炭水化物食を多く摂取することがわかった。絶食後の再摂食においてマウスが炭水化物食を好んで摂取するのは、脳の糖代謝を速やかに正常に戻すためと考えられる。 また、この効果は室傍核に脂肪酸酸化の特異的阻害剤であるetomoxirによって完全に抑制された。以上の事から、室傍核AMPKは脂肪酸酸化を介して炭水化物と脂肪の食餌嗜好性を調節することが明らかとなった。
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