研究概要 |
NMDA受容体は、刺激に応じて様々な細胞内シグナル伝達経路を活性化する。申請者はNMDA受容体調節機構の一つにチロシンリン酸化による制御を提唱している。20年度には、Src 型キナーゼによるNR2A、及びNR2Bのリン酸化の意義を追求し、以下の結果を得た。【NR2A】(1)NR2A の主要なリン酸化残基である Tyr-1325をフェニルアラニンに置換したY1325F改変マウスを用い、wire hang, open field,light/dark transition, elevated plus maze, rotor-rod, prepulse inhibition, tail fick, hot plate などの試験を課した。これらはマウスの活動量、運動能力、感覚、統合能力を問うもので、野生型マウスと有意な差はなかった。これに対し、海馬依存的記憶形成能を判定する Morris water maze 試験においては、Y1325F改変マウスは野生型マウスに比ベトレーニング回数が少ない状況で学習が成立しており、空間学習能力が向上していると考えられた。さらにY1325F改変マウスでは、NR2B の Tyr1472 のリン酸化が亢進していることを見出し、Y1325F改変マウスではNMDA受容体の特定の機能が活性化されている可能性が示唆された。(2) 昨年度 Y1325F 改変マウスが抗鬱様行動を示すことを示したことに引き続き、その分子基盤を探った。その結果抗鬱様行動の制御に関わる線条体ドーパミン機能を調節するDARPP-32のThr-34のリン酸化が亢進していることを見出した。【NR2B】以前に同定していた主要なリン酸化残基のリン酸化依存的にNR2Bに会合する蛋白質を同定することを目的として、NR2Bをベイトとした通常の yeast two-hybrid 法にさらに Fyn を発現させた yeast tri-hybrid 法を用いてスクリーニングを行った。その結果、PDZ蛋白質や、細胞接着分子、膜蛋白質、キナーゼ、及び新規分子を同定した。それら分子とNR2Bの機能相関の解析を推進した。
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