本研究課題は、ES-体細胞融合細胞からES細胞由来の染色体のみを取り除くことで体細胞由来の多能性幹細胞を作り出すための基盤技術の開発を目的としている。方法として、1)染色体除去の新分子ツール、染色体除去カセット(CEC)の開発、2)染色体除去の高効率化をもたらす技術の開発、3)ECE-ES細胞ライブラリーの作製、4)ES細胞全染色体へのCECの導入、5)ホストES細胞の開発、6)ヒトES細胞と体細胞の新細胞融合技術の開発、を挙げていた。マウス細胞を用いた研究成果として、1)CEC-ES細胞ライブラリーの作製の成功、2)ES細胞へ40コピー以上のCECの挿入、3)染色体の一斉除去による細胞死の誘導、4)染色体除去技術を用いた遺伝子量バランスの重要性、を明らかにすると共に、5)ES細胞:体細胞=1:1の融合システムの開発を行った。ヒト細胞を用いた研究成果として、1)ES-体細胞の電気融合に融合細胞の作製技術の開発、2)融合細胞からの染色体除去の成功、3)ヒト融合細胞における遺伝子量バランスの重要性、が明らかになった。ヒトとマウス細胞において、生きた細胞の核からの選択的染色体除去技術により、細胞は25%迄の遺伝子変動には寛容性があるが、50%になると細胞死を招く事が明らかになった。この細胞死は、多くの遺伝子発現が一挙に変動するために誘導される可能性と、細胞には遺伝子量の変動に敏感な遺伝子量モニタリング遺伝子が存在する可能性を示唆している。一方、マウス2倍体ES細胞から、染色体除去技術を用いて特定の染色体を除去すると、予想よりも高頻度で相同染色体重複により、CEC標識のない正常2倍体ES細胞が得られた。これらの結果は、相同染色体組み換え技術の人工多能性幹(iPS;induced pluripotent stem)細胞への応用の可能性を示している。
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