熱ショック転写因子HSF1は温度ストレスを感知することで、熱ショック遺伝子群を誘導して細胞死を防ぎ、それ以外にも個体発生の過程で多くの役割を担っている。我々は、さらに、HSF1が免疫応答に必須であることを見いだし、その分子機構の少なくとも一部は、HSF1のクロマチン制御を介するIL-6遺伝子の制御であることを明らかにした。本研究では、発熱レベルの温熱ストレスがHSF1を介して炎症性サイトカイン産生を抑制することを明らかにした。 マウスマクロファージと胎児繊維芽細胞MEFをLPSで刺激すると主要な炎症性サイトカインIL-6が誘導される。我々は、細胞を発熱レベルの温熱にさらすと、HSF1を介するIL-6誘導の顕著な抑制がみられることを明らかにした。そこで、HSF1ターゲット遺伝子群を検索した所、IL-6の転写を抑制するATF3を同定した。HSF1はATF3遺伝子に直接結合し転写を誘導し、その誘導はLPS刺激により増強される。ATF3欠損MEF細胞では、LPSによるIL-6誘導は亢進し、温熱ストレスによる発現抑制を認めなかった。DNAマイクロアレイ解析から、LPS刺激により誘導を受ける100遺伝子を同定し、そのうち約90%の遺伝子の発現誘導が温熱処理により抑制される。その多くの誘導がATF3を介して抑制されることが分かった。個体レベルでは、IL-6は主要な発熱性サイトカインであり、LPS刺激によりIL-6の産生亢進とともに発熱がひき起こされる。HSF1欠損マウスでは、LPS刺激後の血清IL-6濃度が亢進し、その全身性効果である発熱反応や急性期反応蛋白質群の産生も亢進した。さらに、発熱反応のないIL-6欠損マウスにLPS刺激を行うと、HSF1のATF3プロモーターへの結合とその誘導、そしてATF3のIL-6プロモーターへの結合が減弱することが分かった。以上の結果は、HSF1-ATF3経路が、発熱性サイトカインであるIL-6の発現抑制を介して炎症性反応を抑制していることを示している。
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