研究概要 |
近年発癌に関する新しいメカニズムとしてcancer stem cell theoryが提唱されている。本研究では、前立腺癌における発癌や癌進展メカニズムを解析することを目的として、前立腺におけるtransient amplifying(TA)cellに着目し、その腫瘍化シグナル中でもsenescence(いわゆる'老化')回避機構を検討した。前立腺全摘出術が施行された組織から非癌部を採取し、CD133(-),α2β1 integrin(+)のTA cellsをMACS beadsを用いて分離した後、数継代培養に耐えうるクローンを選択した。これらの細胞はstem cellとは異なり増殖活性が高く、分泌細胞へと分化する。アンドロゲン受容体発現はみられないが、基底細胞マーカーであるp63,高分子サイトケラチンを発現している。長期間にわたって培養し継代を続けると、やがて増殖活性が低下し、大部分の細胞は細胞死に至ったがごく一部のクローンはsenescenceを回避し、増殖活性を再び獲得することが分かった。Senescenceを回避できるクローンは、癌発生頻度の高いperipheral zone由来のTA cellsにおいてより高率に観察された。Senescence関連分子群を網羅的に解析した結果、senescenceを回避したクローンではjunBの発現が有意に低下することが明らかとなった。junBはjun family memberのひとつで、前立腺TA細胞における腫瘍化シグナル、senescence回避に重要な影響をもたらす事実はこれまで報告されたことがなく、新知見といえる。この研究結果は、junB発現の維持、誘導が前立腺癌発癌に抑制的に機能する可能性を示唆しており、発癌予防上の新しいtargetになると期待される。今後は、junB分子が前立腺癌細胞(組織)における発現態様や癌細胞における機能解析について、分子生物学的、病理組織学的に検討する予定である。
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